№69. マレーシアの嫌なところ〔後編〕


前編に引き続き、憂さ晴らし系ネガティブ・コラムの巻。。。


【時間泥棒】
マレーシア以外の東南アジアでも、同じことかも知れないが、こちらでは、ペットボトルの水にはカネを払うが、他人様のアイディアや、時間などの、カタチのないものはタダ(無料)だと思っている輩が多い。 当地の同業の友人からは、「マレーシアの会社は、業者に対しては、発注をエサに、アイディアを出させるだけ出させておいて、最終的には、その案と一緒に、価格の一番安いところに発注するので、要注意ですよ」 と、聞いていたが、本格的に当地での営業活動をしてみると、頷けることが多い。 たとえ、それが信頼に足る、我らが同胞の日系企業であっても、決定権がローカル・マネージャにある場合などは同じことである。

中には、一年近くもダラダラと、システムベンダーに提案を出させ続けておいて、挙句の果てには、「やはり、今期は予算が無いので・・・」 などと、確信犯の無銭飲食オヤジみたいなことを言う。 これが、資金潤沢な日系超大手メーカーのローカル担当者なので、困ったものだ。 「アナタのところのプロポーザルは、イマイチなので、ちょっと採用出来ませんね!」とか、「見積金額が高過ぎるので、ウチでは発注出来ません!」とでも言われれば、 「ああ、今回は、こちら側が力不足だったのだな」と、納得も出来る。 が、しかし、彼らが更新して出している要望書に、こちらのアイディアが、そのまま出ていたりすると、「ああ、やっぱりそうか、相手を無警戒に信頼して、色々オープンにしてしまったウチが甘かったのね・・・」 と、相手のヤリ口を悟ると同時に、「何だかな~」と、ヤルセナイ思いで、道端の石ころを蹴飛ばしたくなるワケだ。

まあ、彼らにとっても、特に悪気や、後ろめたさがあるわけではない。 確たる実行計画も、予算措置も無い状態で、複数ベンダーからタダでアイディアを出させて集め、最終的には、その案を元に自社で開発するか、もしくは、イチバン安い開発ベンダーに発注する。 どうやら、これは、特段珍しいことではなく、インド人が毎日カレーを食べるが如く、当地では、日常的に行われていることのようだ。

私の場合は、幸いにして、こういう情報を、友人達から、事前に聞いて知っていたので、前述のような気配を察した場合は、こちらから、さりげなく、関与をお断りして、傷口を深くすることは避けられた。 そして、今後も、この手の見極めは、抜かりなくやって行かねばと思っている。 なぜなら、アイディアと、それを練る時間をタダで使われてしまっては、こちらとしては、哀しいかな、残るものが何もないからなのである。


【スローテンポ】
全てにおいて、日本のスピードが異常なのかも知れないが、こちらの人達は、車の運転と、自身の儲け話以外に関しては、何をやるにしても、急がない、とにかくスローなのだ。 11年前に移住してきた当初は、前の人の歩く速さや、小売店などでの店員の受け答えのスローさに、呆れると同時に、イライラしたり、ムカついたりしたものだ。 慣れというのは怖いもので、最近ではあまり感じなくはなってきてはいるが、今でも高速の料金所では、こちらのテンポで小銭を渡し、車を発進させると、遮断機にぶつかりそうになることがある。 その料金所では、車が1kmくらい停滞していても、テキパキと仕事をして、なんとかこの状態を解消しよう、などという素振りを見せるワーカーは稀で、酷い場合は、仲間とのお喋りが優先の奴も居たりする。

おそらく、こちらに赴任してきたばかりの日本人ビジネスマンが、最初に抱く不信感は、「こいつらヤル気あるのか?わざとトロトロ仕事してやがるな」といった類のことだろう。 私も、当初は、そういった感情を常に持っていたので、現地の事情を理解するまで、とても精神衛生上良くなかったと思う (一度、怒りのあまり、机を思いっきり蹴飛ばしてしまい、右足の親指を負傷してしまったこともあった・・・)。 今でも、我社の場合は、他社で、ローカルペースの仕事に慣れきった者を、採用するのが嫌なので、なるべくFresh Graduate (新卒)を採用している。

学生から社会人1年生になったときは、誰でもカルチャーショックを受けるだろうから、そのタイミングで、ちょっとハードルを上げてしまう環境にしているのだ。 「時間と約束は、必ず守りましょう」、「新しい技術などは、独り占めせず、お互い協力して仕事をしましょう」、「机の上は整理整頓しましょう」、「昼休みで外にでるときは、電気を消して行きましょう」、 「納期は厳守しましょう」、「プログラムが早く完成したらといって、遊んでないで、もっと品質を上げましょう」、「本だけは、読む癖をつけましょう」、「仕事のメールは、クイック・レスポンスを心掛けましょう」、 「どんな仕事も、信用第一、顧客を騙すような仕事してはいけません」、等々、鉄は熱いうちに打て、である。

最近では、社内で、「○○社の人間は、約束した日時を守らないので、信用できない」とか、「あの会社の人は、メールのレスポンスが極端に悪い!」などと、ローカル社員同士の会話を聞いたりするので、 それなりに、新卒“刷り込み”作戦は、成果を上げているのだろう。 が、しかし、持って生まれたテンポを変える方法は、未だ私には分からない。 演歌世代にラップで踊れ、と言っているようなものなのか、「表面だけでも、この場面では、焦っていて欲しい!」といったときに限って、高速道路で重機を運転しているが如く、妙に落ち着いているのである。 こちらとしては、そういった状況で焦っていないローカルを見て、「コイツ、問題の深さがわかってないのかも?」と、更に、こちらの焦りが増してしまう悪循環なのだ。

まあ、かく言う私も、日曜の昼下がりに、ローカルコーヒーショップで、ボケっと本を読んでいたりすると、「まあ、そうセカセカしなくても、いいのかな?」 などと、半分、“土地の者”になっている自分を発見するときがあり、この文書を3年後に読み直すことが、ちょっと怖い気もする。


【ジョブ・ホッピング(転職)】
当地の日系工場でも、2008年のリーマンショック後には、相当生産が落ちて、単純労働ワーカーをカットした。 が、その後、2010年初頭より、景気が上向きはじめて、今度はワーカーや、それを管理する、マネージャクラスの確保が、非常に大変な状況になってしまっているようだ。

就職や、転職に関するマレーシア人の感覚は、現在も終身雇用を、どこかで心の拠り所としている日本人の感覚とは異なり、フットワークはかなり軽い。 若い人の中には、アルバイト感覚同然、いや、もっと言うと、フィットネス・クラブにでも退会届を出すが如く、軽い気持ちで、退職届けを持ってくるのだ。 我CSL社でも、約10年間で、ローカルを21人採用したが、7割は既に転職してしまった。 これでも、「CSLは定着率がイイよね~」などと言われるときもあるので、他社では、相当に人の出入りが激しいのだろう。

ウチの場合は、退職理由の統計をとっているワケではないが、入社して1年以内に辞める者は、やはり、待遇(カネ)面の問題がイチバン多いと思う。 我社では、社会人1年生で、修行中の“持ち出し”社員に対しては、当たり前だが、まったく高給優遇をしていない。 なので、将来性のある若手が、流出する可能性も大きいのだが、実戦経験もないヒヨコ状態のくせに、僅かな給与の違いで、ホイホイ転職して行くのであれば、 それはそれで、惜しい人材とも思わないことにしている。 また、力量がなく、要領も悪く、且つ、努力もしない者は、少しでも給料が良いところが見付かれば、それはそれで、本人にとっては、幸せなことなのかも知れないと、割り切ることにしている。

その他の退職理由では、『日本語のWindowsのが分からないから』、 『一緒に入社希望だった、ルームシェア予定の友人が、CSLを不採用になったから』、 『家が遠いから』、『自分で、雰囲気を変えたいから』、等々、様々だが、中には、 『ウチは母子家庭なのですが、お母さんが、給料の良い会社見付けてきて、そっちに行かなくてはならないのです・・・』なんてのもあって、 「で、君、本人の意見はどうなの?、私は、だからといって、実力以上の給料をあげるつもりはないけど?」と、思わず突っ込んだら、何故だか知らぬが、泣かれてしまった。 (私としては、その後、「実力があれば、おカネも付いてくる」と、言いたかったのだが・・・)

退職理由は色々あるが、私個人として、イチバン厄介で辛いのは、比較的優秀な社員の“上昇志向”による転職願望だ。 なぜなら、顧客独自の業務ソフトウェアを、開発・維持している我社にとっては、技術者も、ある程度の継続性を持って、仕事をしてもらわないと困るからだ。 システム構成の理解や、プログラム言語のスキル、そして顧客との関係等々、簡単に引き継ぎが出来るものではない。 つまりは、A社のBシステムを担当しているC君が退職するからといって、明日から、D君が即活躍出来るといった、“デニーズへようこそ”的な仕事ではないのだ。

中には、勘違い系の“自称上昇志向人間”も多いが、本来の意味で上昇志向が強い社員は、やはり、それなりにデキる者が多い。 なので、当然、ある程度の範囲の仕事は任せていて、全ての範囲の情報(プログラムコードの細部まで)を、マネージする側とシェアしているわけではない。 ある意味、その人に依存もしているし、属人性のある仕事も少なくない。 そんな立場の人間に、ある日突然、「もう、ここで学べる技術は身に付けたので、新しい知識が欲しいから転職します」と、言われると、 定年退職した日に、熟年離婚を言い渡された夫のように、相手に対する思いも、依存度も強い分、とても“イタイ”のである。

辞める側からすれば、「もう、この会社で学ぶことはない、俺は(私は)もっと才能と可能性がある、ステップアップの為には、次のステージへ行かなければならない!」と、いったロジックである。 こういう考えに至ってしまった人に、「まあ、ちょっと待てよ、仕事というものはな・・・、会社というものは・・・、人生とは・・・、忠義とは・・・」などと、人生の先達ヅラして説教したところで、 “過労死”という言葉をマレーシア人に説明するが如く、理解を得られる筈もないのだ。

「君が120%把握しているつもりの仕事だが、ボスのヘルプ無しで満足に出来たとでも思っているのかぁ(怒)!!」と、心情をぶつけたいところではあるが、 そこは、分別ある51歳として、自宅で暗い酒を飲み、考え事で眠れる夜を過ごすこともあるが、本人の前では、グッと我慢するのだ。 そして、寂しそうな笑顔で、「オメデトウ!」と祝福し、ただ、ひたすら円満に業務を引き継いでもらって、「転職先で困ったら、相談に来るんだぞ」などと、 懐の大きなところを自ら演出し、気持ち良く転職して頂くのが、最善の策なのである。(ツライね)


【劣悪接客態度】
マレーシアで、「あの店の接客態度は、なってない!」などと、日本人感覚でイチイチ頭に来ていては、堪忍袋が何ダースあっても足りない。 例えば、“朝10時開店”の店に、急ぎの用事があり、朝9:55頃に店の前で待っているとすると、だいたいシャッターが明くのが10:00過ぎだ。 開店時間なので店の中に入ろうとすると、「まだ準備中だ」と、当然のように中に入れてくれない。 シャッターを半分開けたまま、店の中の準備をしたり、携帯電話をかけてみたり、タバコを吸ってみたり、まるで、私は存在していないような振る舞いなのだ。 こちらも、ただ黙殺されているのも癪なので、汚い日本語でブツブツと悪態をついていると、「わかったよ」とばかりに、渋々急いでくれたりする。

これがオーナー系の商売人であれば、「ちょっと散らかってますが、どうぞ、どうぞ」といったところだろうが、雇われ人の意識は、まったく違う。 多くの店員達は、「俺は、ボスに給料をもらっているので、ボスの言うことはきくが、客に便宜を図ったり、媚を売ったところで、一銭にもならんじゃないか」といった、 “Smile身入り0円”派だ。 なので、当地では、雇われ店員のミスや怠慢に対して、本人にクレームをつけたところで、一向に埒が明かないのだ。 そんなときは、必ずマネージャか、オーナーといった、店員の“生殺与奪権”をもったポジションの人を呼んで、理路整然と文句を言うのが正しい方法なのだ。

まあ、怠惰な動作や、ヒトを見下したような態度は、その時は頭に来るが、要件が済んでしまえば、あとは悪態ついて店を出てきてしまえば良いので、 気持ちの整理もできるが、「これは、ちょっと性質が悪い」と思うのはテレコム・マレーシアだ。

テレコムは正式名を“Telekom Malaysia Berhad”といい、日本のNTTみたいな存在なのだが、固定電話をほぼ独占していると言われている故か、 ここのお役所的仕事は、信じられないくらい酷い。 “新しいサービスに加入したが、旧サービスの高い請求が来た”、 “解約したのに、デポジットが戻って来ないばかりか、新たな請求が来た”、 “身に覚えのない、かなり高額の過剰請求が来た”、等々、カネに関するトラブルが頻発するだけでも、かなりのサービスレベルの低さを物語っている。 まあ、しかし、人為的なミスや、機械の故障、そして事故などは、どんな会社でも発生するので、我慢するしかない。 ただ、問題なのは、それらトラブルや苦情への対応だ。

我家の固定電話も、一時期混線が発生し、どこかの男性宅と音声が混じってしまい、マチガイ電話(コールしている人は間違ってないのだけど)と、他人同士の会話が聞こえる現象に妻が悩まされた。 妻が文句を言いに、近くの出先窓口に行ったところで、部署をたらい回しされる日々が続き、根本的な解決には至らない。 そうこうしていると、ヌケヌケと高額の請求書などが送られて来るではないか。 妻は、ムカつきつつも、再度、クレーム記録持参で、出先窓口に行き、「だから、何度も、何度も、以前からクレームしてるでしょ?」と、詰め寄るが、窓口の者は、例外的な業務には対応出来ぬのか、ひたすらノラリクラリ、そして、マネージャは 職場放棄同然の居留守を使い、問題から逃げるばかりなのだ。 挙句の果てには、「とにかく、請求書の金額を一旦支払ってください」などと、自社製システムの不備を顧みず、強気な言動を繰り返すのは、どこかの投資詐欺的グループ企業のようだ。 もちろん、納得がいかないので、長期間支払拒否(要は放置)をしていたのだが、結局、電話回線はカットされて、通話不可とされてしまった。

幸いにして、我家の場合は、時間はかかったが、最終的にはテレコム側がマチガイに気付き、解決したので、「この会社は詐欺だ!」とまでは言えない。 が、しかし、システムの不備、組織としてのモラルの低さ、そして、顧客軽視のサービスレベル、等々、これらのトラブルに直面した在馬邦人達の間では、「この会社は腐っている!!」と、誰憚ることなく、断言されているのが実態である。


【現地化邦人】
実を云うと、このテーマがイチバン書きたいのだが、詳しく書くと、特定の人に棘のある内容になってしまう可能性があるので、サラリと流して書こうと思う。 私も、在馬歴が長くなって、自覚症状が薄くなっている可能性もあるので、自戒を込めて書いているのだが、 マレーシアに住む日本人で、「ローカルだったら、慣習なので許せるが、ちょっと、コイツは日本人としては嫌だな」と、思ってしまうのは、ズバリ・・・“約束を守れない人”だ。

人と人は、日々、色々な“他人”と、大小様々な約束をし、そして、それを果たしながら生きている。 云わば、その積み重ね(実績)が、個人の信用となり、その人の、人間関係を豊かにして行くものだと、私は思っている。 しかしながら、そういう感性が無い(或いは、薄い)人も、残念ながら、当地では多々居るのだ。 自分自身にとって大切な、“大きな約束”は守るが、“小さな約束”は、反故にするか、反故にしたことさえも気付かず、忘れ去ってしまう人。 当地の風土や慣習がそうさせるのか、元々そういう感性の人間だったのかは分からないが、自覚のない“気にしない病”患者が、意外なことに、けっこういらっしゃるのだ。

51歳にもなると、若い頃のように、“自分の人生は永遠”とは思えない年齢なので、上記のような人達とも、気持ちよくお付き合いする努力をするのは、 「ちょっと、億劫かも?」と、顔に出てしまっても、“気にしない”で頂きたいと思う。

この話題は、このへんで止めておこうっと。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


本稿を書き始めたときは、“マレーシア大好き人間が、敢えて、マレーシアの民度の低さを告発する!” みたいな、偉ぶった気持が大きかったのだが、全部吐き出して(書いて)みると、これゃ、私的愚痴以外の何物でもないようだ。 愚痴をウェブで公開することの是非は問われるところだが、読者の多くには、将来、マレーシア移住を希望されている方々も居たりするので、 「マレーシアだって、良いことばかりではなく、色々ありまっせ、ホント」と、いった陰の情報を提供する意味だってある。 そして、個人的には、この時期、こんなことを考えていたのだという記録にもなるだろう。

そういう意味でも、このネガティブ・コラムは、[2010.8.22]という日付入りでアップしておこう。

また、次回からは、前向きなコラムを心掛けま~す。


(№69. マレーシアの嫌なところ〔後編〕 おわり)


前のページ/目次へ戻る/次のページ