№67.加油!TOYOTA


2010年2月現在、欧米(特にアメリカ)ではTOYOTA批判が噴出している。 詳細は、各種報道に詳しく出ているので触れないが、高級車レクサスのフロアマット問題からはじまり、とうとう、人気車種プリウスのブレーキ制御システムまで、不備が指摘され、リコールとなってしまった。 TOYOTAといえば、日本を代表する製造業の牽引役であり、その品質や生産技術は、世界でもトップクラスだと、誰もが信じて疑わないであろう。 そんな、TOYOTAが、ここのところ、立て続けに不具合を指摘され、鳴り物入りで就任したばかりの創業家社長が窮地に立たされているのだ。


品質管理に自信がある故の過信か、一部、初期の対応にマズさはあったとは思う。 が、しかし、米国内のコトの推移を、これまで見てみると、ちょっと、この“バッシング”は異常だ。 「たかが、乗用車のリコールごときに!」と、言ってしまえば語弊があるが、マスコミや運輸省から、ここまで厳しく叩かれると、 通商や、政策決定に関して、シロウトの私であっても、批判している側に、何らかの意図があるのではないかと、考えてしまうのは自然であろう。 まあ、ぶっちゃけ言うと、アメリカの偉い人達は、アメリカ人がGMやクライスラーの車を買わずに、TOYOTAやHONDAを買うことが国益に反すると判断したのであろう。 そして、なんとかして、日本車の品質に対する信用を失墜させ、自然なカタチで“Buy America(米製品購買運動)”を喚起したかったのではないだろうか。 まして、TOYOTAのシェアはアメリカだけではないので、TOYOTAの品質を疑う人達が増えてくると、世界中にアメリカ車を売る隙間が増えることになる。 常日頃、性能の良い日本車を苦々しく思っていた人達にとっては、『TOYOTA車に欠陥発見』というニュースは千載一遇の好機と映ったとしても不思議ではない。


当然、世界中のドライバーにとって、安全・安心は、価格以上の関心事である。 インドのTATA(ナノ)のように、いくら車が安く買えたとしても、万一、車に欠陥があり、それが原因で交通事故を起こしてしまっては元も子もない。 自動車メーカーにとっては、『安全上の欠陥がある』という噂が出ることは、その噂だけでも命取りなのである。 一方、アメリカ政府や国民達は、自国の惨憺たる経済不振を、かつての花形産業である、自動車をベースに押し上げたい気持ちは強いであろう。 そんな彼らの思いと、今回の日本車のリコール問題は、見事にニーズと事象がマッチしてしまったのだ。 やり方自体は、いかにもアメリカンな大味で、その単純明快さがかえって不気味ですらあるが、 彼らは、日本車にとって生命線ともいえる、品質(安全・安心)への攻撃を、官民一体となって意識的に開始したことは間違いない。 仮に、もし、この挙国一致体制キャンペーンが成功すれば、ターゲットはTOYOTAから異業種のビッグネームに移る筈だ。 そんな事態になれば、以前から『ハゲタカ・ファンドに狙われている』などと言われている、某大手重電企業などは、かなりの苦戦が予想されることだろう。


かつて、アメリカは、価格の安い中国製品に対して、その危険性を強調し、自国の商品に“チャイナ・フリー(中国産品不使用)”などと明示させていたこともあった。 この、熱し易く独善的な、チャンピオン・ファイトの国アメリカは、国家主導で他国や、他国の企業を叩き潰すことなどは、飛んでくるハエを潰すくらいの感覚であろう。 圧倒的な傲慢さで迫りくるこの危機に、我等がニッポン企業は、一矢を報いることが出来るのであろうか、それとも、65年前のようなことになってしまうのか。


最近、私は、このTOYOTA問題を契機に、経済活動における仮想敵国アメリカに、“ヤラレッパナシ”になっている状況が悔しくて堪らない。 常日頃の言動からは、想像出来ないとは思うが、こうみえても、私は、意外と愛国者なのだ・・・(Nationalist じゃなくてPatriotの方ね)。


さて、以下のストーリーは、まったくの空想(妄想)だ。事実的根拠はゼロで、云わば戯言の範疇である。 こんなことが経済産業界で起こるとは、常識的な人間は考えないし、実際にあったら恐ろしい。 しかし、“時代の空気”だけで、「あの国は、大量破壊兵器を保持しているに決まっている!」と、他国に爆弾の雨を降らせるメンタリティの持ち主達のやることだ。 (自身の強欲さ故に)傷ついてしまったプライドを回復するために、恣意的な情報操作で、安直なナショナリズムを高揚させることぐらいは簡単であろう。 ストーリーは、三流週刊誌レベルだが、要は、「マサカ、こんなことやってたら、許さね~ぜ!」、「こっちだって、アンタの手口くらい研究済みなんだよ!」 といったニュアンスを込めて、書いてみただけだ。 そう云えば、バブル経済崩壊前夜の金融業界のことや、外務省の不祥事問題などは、「結果的には、日本経済新聞より三流週刊誌の方が、内容が醜い分だけ正確だった」 なんて、笑えない事実も多々あったことが懐かしくもカナシイ。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


<<< 今から2年後の2012年2月のこと・・・ >>>

オランダ、ハーグの国際司法裁判所は、アメリカに対する日本の仮保全措置申請を請け、当該権利を保全するための仮保全措置の命令を下した。 『当該権利を保全する』とは、「米国の、恣意的な情報開示行為は、不当に日本国産業界の信頼を失墜させ、日本の利益を損ねている可能性がある」と、いうことだ。


それは、2009年から2010年にかけて、TOYOTA自動車により行われた、大規模なリコール問題に関することである。 フロアマットがアクセルに引っかかるという、技術以前の問題や、ソフトウェアによるブレーキ制御のタイミング等、問題は様々であったが、年間生産台数を超えるリコールに、 全世界のTOYOTA車ユーザは、不安な日々を過ごすことになったのだ。 米議会では、下院の委員会でTOYOTA問題に関する公聴会を開き、米運輸省の道路交通安全局(NHTSA)は、制裁金を科す可能性をも示唆した。 創業家の若い豊田社長は、米国へ飛び頭を下げ、誠心誠意ユーザの為に、全社をあげて信頼の回復に取り組むと弁明するも、米国のマスコミではTOYOTAバッシングの嵐が吹き荒れた。


一方、良識のある米国人ジャーナリストなどは、「フォードだって数百万台のリコールだったのに、なぜTOYOTAだけがこんなに問題視されるのか?」と、疑問の声を上げていた。 石原東京都知事や週刊誌なども、“アメリカ嫉妬説”を公言して憚らなかったが、バッシングの背景には、日本国内のエコカー減税への不満とあわせて、 TOYOTAがGMとの合弁会社(NUMMI)を、シュワ加州知事の懇願を蹴り、清算・閉鎖したことに対する感情論も、あるようであった。


大量リコール~販売不振~生産調整(縮小)~業績悪化と、TOYOTA本体のみならず、系列各社、海外の現地法人、そして、それらを支えるサポート・インダストリーの各社までが、経営危機に陥りつつあった。 そんななか、日本政府内のあるグループ(内調でも公安でもなく、組織図的には存在しない)は、独自にこの問題への対応を、上記の公然の疑問とともに開始していた。 まず、米国の政権に近い親日派・知日派の所謂、“ジャパン・ハンド”と呼ばれている人達へのロビー活動を通じて、高いレベル情報を収集する。 並行して、米国TOYOTA社の従業員、対抗する米国の自動車メーカーの従業員へと調査を広げ、最後には、不具合を通報したTOYOTA車ユーザにまで接触を持った。


戦後、インテリジェンス(諜報)に関しては、他国に大きく遅れをとっていると、各国の嘲笑の的になっているニッポンだが、実際には、 その実体は、企業戦士(主に商社マン)などを装い、巧みにカモフラージュされ、数々の成果を上げていることは、一般世間では知られていない。 彼らの効率的、且つ献身的な働きにより、調査開始後約一年で、以下のような恐ろしい調査結果が明らかにされたのだった。


今回のバッシング騒動の基本シナリオを描いたのは、タカ派の老下院議員、自動車産業の中心地、デトロイトを選挙区とする、米エスタブリッシュメントの重鎮だった。 実行計画策定と、諸々の手配者は“不明”との結論であったが、事業規模の大きさと、受益者の立場を勘案すると、 国家レベルでバックアップされた、その道のプロ集団であることは間違いないと思われた。 また、一部のハイブリッド車の組み込みソフトを改竄(実際は、回生ブレーキから、油圧が回復するまでの時間を、通常のABSを搭載したクルマより、 0.06秒長くセットしただけだが)し、ユーザに届く前に、販売店の敷地で組み込んだのは、以前、ビッグ・スリーに勤務していたコンピュータ・エンジニアであった。 「TOYOTAのブレーキ制御プログラムなど見たことがない」と、彼は犯行を全面否定したが、押収された彼のLapTopからは、TOYOTAが不正利用判定のめたに故意に組み込んだ、 “意味無しロジック”を含むプログラム・コードが、OSから削除された状態で発見された。 そして、驚くことに、走行中にブレーキが戻らず事故死したと言われた老人に関しては・・・実在していなかった。 つまり、これら一連の出来事は、TOYOTA車の些細な欠陥をトリガーとして利用した、アメリカ自動車産業界の重鎮達によって仕組まれた陰謀であったのである。


次々と報道される、米エスタブリッシュメント達の汚い策略を承知しつつも、TOYOTAはトラブルの原因に真摯に対応した。 (もちろん、並行して、議会へのロビースタッフも充実させていたが・・・) 頭を下げるべきところは、代表者が自ら現地へ赴き謝罪し、説明責任を果たす。 修理が必要な部品は無償で交換し、ソフトアェアの入れ替えなどは、各ディーラーレベルで迅速に対応した。 米国人をも含む全社員が、一致団結して対応をする姿勢を、同じ人間であるアメリカ庶民達も、悪く思う筈がない。 トラブル発覚当初は、『日本車憎し』との感情論に走っていた者も居たが、結果的には、アメリカのみならず、世界中の人達の信頼を勝ち得てしまったのだ。


今回、TOYOTAへのバッシングを緒に、最終的には“日本潰し”にまで繋げようという、 “悪魔のシナリオ”を描いたタカ派の老下院議員は、事件発覚後の公聴会でこう証言(懺悔)した。 「リコールの可能性のあった日本車メーカーは何社かあったが、スケープゴートとして、業界のトップ企業を選択した。 が、しかし、財務体質の盤石なTOYOTAをターゲットとしたことは、我々のミステイクだった。 彼等の誠実さもあるが、ここまで、度重なるリコールの損失負担にも堪え得る会社だとは思わなかった。 我々のシナリオは、『TOYOTA、いや日本企業は、どんな経済的負担をも顧みず、顧客への責任を第一と考える』という印象を、全世界に宣伝してしまったようなものだ。 自己(株主や組合、そして経営トップ)の利益が最優先課題のGMやクライスラーでは、とても、こんな芸当は出来るまい」


老下院議員の当初の意図に反して、米国でのTOYOTAの地位は確固たるものとなった。 この年、「日本車の品質とサポート体制は素晴らしい」との評価は他社へも波及し、HONDAやSUZUKIも米国での最高収益を記録した。 皮肉なことに、この年のクリスマス・イブに、かつてビッグ・スリーのトップに君臨していた自動車メーカーが、世界の市場から姿を消した。 それは、ある意味で、アメリカン・ドリームの終焉でもあった。 自ら書いたシナリオを演じ切れなかった代償は、けっして、小さくなかった。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


上記のストーリーは完全に冗談、ただの荒唐無稽な作り話だ。 が、しかし、「トラブルに真摯に対応し、結果的に世界中の人達の信頼を勝ち得た」という件(くだり)はあり得る話だ。 おそらく、アメリカ人でさえも、自分の車を購入する際には、「TOYOTAの品質が怪しいので○○に乗り換えよう!」とは思わず、 「TOYOTAでさえ、品質に問題があるのだから、経営危機の○○なんてもっと酷いのではないか?」と疑うことだろう。 それどころか、「あんなにトラブルで騒がれたのだから、今は、きっと“KAIZEN(改善)”が進み、以前より品質は素晴らしい筈だ!」と、 北海道銘菓の“白い恋人”ではないが、不祥事からのリカバリー具合が、人々に安心感すら与えることになるであろう。


当然だが、今回のTOYOTAバッシング問題は、数年後に、スパイ小説のような舞台裏が報道されることはないであろう。 だが、現在のアメリカ議会の報道などを見ると、この機に乗じて“日本製品叩き”を徹底して、アメリカ製品を買わせ、 自国の経済を浮揚させたいという意図は、笑ってしまうぐらい明白である。


こんな状態から、信頼を回復することは、容易いことではないとは思うが、TOYOTAは、日本一体力(トヨタ銀行などと揶揄されていた)があり、技術力も人材も揃っている会社だ。 案外、一年もしないうちに、上記のストーリーの後半部分のような、“信頼回復”の状態になるのではないかと、思ったりもしている。 いや、そうなってもらわないと、我々、産業界で働くニッポン人は困るのだ。 ガンバレ(加油) 世界のTOYOTA !!、そして、ガンバレ(加油)日本企業!!


蛇足だが・・・

「世界的な信頼を勝ち得て、会社の将来を盤石にする!!」
この目的のために、上記のようなストーリーで、一旦、自社を谷底に落としておいて、、長期的なリカバリー計画で、揺るぎない信頼を再構築する。。。 なんて、シナリオをTOYOTAの企画室とかが画策して、実行していたりしたら、もっと凄いと思うけどな~。(まあ、これこそ、スパイ小説の読み過ぎだわね)


(№67.加油!TOYOTA おわり)


前のページ/ 目次へ戻る /次のページ