前編をアップロードした翌週のこと。 不注意で個人で使用しているノートPCのファイルが、全て復旧不可能となってしまった。 ファイルバックアップは、二週間前のものが外付けのハードディスクにあるのみ。 このコラム集に関して言えば、サーバにアップロード済のHTML群は、そのWEBサーバがバックアップとなり無事であったが、 問題は、バックアップ後の更新ファイルなのだ。 つまり、このコラムNo.63だ。 前編リリース後、珍しく、色々な人から、「Y君の話、続編が楽しみだよ!」などと煽てられ、「それならば!」と、記憶がホットな内に書いておこうと、 間髪を入れずに、ほぼ書き上げていた本稿が、キレイさっぱりと無くなってしまったのだ。 それも、下書きの粗筋を記述した、大切なテキストファイルとともにだ。 一度、気合を入れて書いたものを、再度、書き直すのは、最初のときより数十倍の気力が必要だということが身に染みてわかった。 モヤモヤ、イライラ、ショックから、折れてしまった心を立ち直らせるまでに2週間。 そして、再起を期して前向き姿勢になるまでに、もう1週間。 やっとのことで、PCに向かうが、NO.61の続編も、発表順を入れ替えて、リネームしたため消えていることが判明して、更に停滞すること1週間。 今回は、そんな経緯もあり、<<つづきは近日中にUP予定>>などと、軽々しく予告しておいて、既に一ヶ月以上も経ってしまったが、 気をとりなおしての再開なのである。さぁ、“イイワケ”は、この辺でやめて、早速、本編に入ろう。
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インターンシップ生3名KL到着の翌朝。 私は、約束のAM9:00少し前に、事務所から、彼らの宿であるEASTINホテルに徒歩で向かった。 昨夜は、心に引っかかるものがあり、熟睡できなかったが、今朝は、サッパリと小奇麗になったY君が、私のモヤモヤを晴らしてくれる筈であった。 ホテルの裏口から地下に入り、エレベータでロビー階へ上がる。 暗いエレベータホールから、朝日の差し込むガラス張りのロビーを見渡し、彼らを探す。 いた。ひとりで、いた。 豪華なソファに、叱られた小学生のように、ポツンと背をすぼめて、高級ホテルには、場違いなオーラ全開で、緊張気味に、視線をテーブルの一点に集中させて座っているY君を発見した。
「おはよう!」と、声をかけると、ピクッと、悪戯がバレた幼稚園児のように反応し、「あっ、おッ、おはようございます」と、返事が返ってきた。 私は、彼に近寄り、脳のA10神経群、側坐核と嗅結節を総動員して、この32歳になったばかりの男の、昨夜との違いを探ろうとした。 が、しかし、私の脳は、その作業を5秒で中断せざるをえなかった。 誠に残念なことに、ほぼ、昨夜と同じ状態だったのだ。 同じカーキ色の上着に、同じホームレス臭。 手にしたノートPCケースは良いとしても、その他の手荷物は、汚れで煤けたうえに、裂け目のある薄緑色のエコバッグに、満杯に詰め込んである。 よく見ると、大切な書類にいたっては、濡れては大変とばかりに、コンビニのビニール袋に入れて歩くので、シワシワ状態になってしまっているではないか。
絶望感とともに、なんとなく、「こうなることは、最初から分かっていたんだよな」と、妙な既視感のようなものを覚えながら、 私は、今後の約2ヶ月の、Y君への対応を真剣に考えざるを得なかった。 もし、彼が、通りすがりの人間であれば、嫌悪感を抱きつつも、無視して、遠ざかるのを待つだけである。 しかし、今回は、日本を遠く離れたこの地で、あと59日間も“研修”というカタチで、付き合っていかなければならないのである。 これまでの経緯から判断すると、Y君には、社会人、いや文明人としての初歩的な常識が備わっているとはいえないし、 自分から気付いて改善されるとも思えない。 要は、彼は自分の身なりが、他人にどう思われているか、などといったことは、一切気にならないようなのだ。 私は、以前、何かで読んだ、赤ちゃんのときに狼に拾われて、育てられた女性を思い出しながらも、 その女性が、どうやって社会に馴染んだかを、意識して読まなかったことを後悔していた。 このままの状態では、CSLのローカル社員達に紹介するわけにもいかないし、彼らの働くオフィスにも出入りさせたくもない。 まったくもって、厄介な問題を抱えてしまった。。。 内心忸怩たる思いを秘めながらも、とりあえずは、インターンシップ生達の作業場としてレンタルした 近くのオフィスへ、他の2人とともに案内して、最初の打ち合わせを始めたのだった。
研修初日は、事務所周辺の案内や、作業場所の環境設定等をする予定であったが、私の中では、“初日なので、本日中にY君への対応を明確にすべし!” という懸案が出来てしまっていた。 合間を見て、自分のデスクに戻り、“禁じ手”かも知れないが、Y君の履歴書と、ネット検索で入手した、彼の前職の会社へ、国際電話をかけてみた。 突然の電話に、最初は口を閉ざしていた担当者(以前の上司?)も、こちらの状況を説明すると、「あぁ、やっぱり、そうですか、変わった方でしたよ!」 と、じょじょに話をしてくれるようになった。もう少し、フランクにカマをかけてみた結果、「社会的常識に欠ける部分が目立った」、「再三の忠告にもかかわらず、改善されないので、退職して頂いた」との2点が明確になった。 要は不潔だったり、突拍子もない発言をしたりするので、手をやいていたらしい。 もう少し突っ込んで、「なぜ御社は、彼を面接したときに、そこに気付かなかったのですか?」と、質問をしたかったが、相手の“見る目”を疑っているように響いては本意ではないので、控えることにした (後に、採用事務はネット経由だったと判明)。
一筋縄では行かない相手だとの裏が取れたため、一応、派遣元である「J協会」の担当者にも一報を入れた。 「J協会」としても、要注意マークをつけていた人物だったのであろう、 あまりにも迷惑をかけるようだったら“強制送還”も考えるとの返事をメールしてきた。 この時点で私は、Y君に対しては、嫌悪感しか抱いていなかったので、 「厄介な奴を預かってしまったな。“強制送還”するのは楽だけど、ただ、せっかく頂いた研修費を、返納するのはモッタイナイな」 と、いった気持ちが正直なところであった。
この日は、Y君は、作業用にレンタルした事務所に“隔離”しておき、EさんとMさんのみを、CSL事務所に連れて来て、ローカル社員達に紹介した。 その後、私の部屋で、Y君への対応について3人で話し合った。 彼らも、Y君に最初に会ったときから、不審に思っていたのは当然で、現状を黙認したままで、 今後の研修を、続けるわけには行かない、という認識は同じであった。
ひとしきり、Y君のアブノーマルさを確認しあった後、これから先、どうやって対応して行くかを話しあった。 まあ、色々意見は出たが、結論としては、「強制的に帰国させるのは簡単だが、何かの縁で一緒になったので、簡単に切捨ててしまうのも忍びない。 あのまま彼を帰国させても、生涯マトモな職につけるとは思えない。ここは、一期一会を大切にして、あえて苦言を呈してやり、少しでも 正常な方向に向けるべく、努力してやることが、Y君のみならず、自分達にとってもプラスとなる筈だ」と、いった趣旨の、“大人の結論”に達したのだった。 年齢的にも、様々な場面で苦労してきたであろう、Eさん、Mさんの、「ここは諦めずに、なんとか良い方向に持って行きたい」と、いった気持ちが、強く反映された結果だと、私は受けとめた。
そうと決まれば、あとは実行に移すのみ。 指導の役割も三者三様、各々のキャラクターを生かして、事に当たればよい。 冷静沈着に常識を諭すEさん、体育会系ノリでシゴくMさん、そして、“強制送還”をチラつかせながら、強権発動含み指導の私。 Y君にとっては、今までの勝手気儘な人生とは違い、大迷惑なことかも知れないが、 まさに、この時こそが、“Y君矯正特別研修”の、トロイカ体制が出来上がった瞬間であった。 不潔な身なりや、非常識な振る舞いは全否定。カースト制度的絶対服従上下関係。 KYで場違いな意見や、他力本願思考は一斉攻撃。 と、Y君にとっては、針のムシロ状態の、残り59日間が開始されることになったのである。
まず、研修初日は、午後から、趣旨を説明したうえで、EさんとMさん監視の下、清潔な服を購入に行かせることにした。 我々、指導側3人としては、とにかく、今まで着古した、見てくれも、臭いも、イメージも悪い服を、一刻でも早く着替えてほしかった。 ついでに、色々、今後のホテル住まいで必要になるものも、購入すれば良いと思い、JUSCOの入った大きなショッピングモールを紹介した。 服などには、ビタ一文も使いたくない超節約家のY君としては、断腸の思いであったろうが、Mさんからは、着ていた服の廃棄命令も、 加えられていたようなので、買わないワケにはいかないだろう。 私としては、「研修初日から、いったいナニやってるんだろう、これは社会人の就活支援の研修であった筈?」と、大いに疑問を感じつつも、 目先の問題が稚拙過ぎる分、早く対応しないと、との焦りでいっぱいであった。
研修2日目は、驚くことに、未だシャワーを浴びて来ないY君に対し、Mさんがキレてしまった。 実は、Mさんは、元航空自衛隊の所属であり、厳格な規律と、絶対的な上下関係の環境で育てられた経歴があるので、 この期に及んで不潔にしているY君を叱り飛ばし、且つ、震え上がらせるには充分なキャラの持ち主なのだ。 即断で、研修作業を中断し、強制的にホテルへ帰して、シャワーを浴びさせることを強制した。 渋々入浴して、事務所に戻って来たY君だが、髪がビショビショのままであったので、それを反抗と解釈したのか、「乾かしてこい!」の怒号で、 再度ホテル戻りを命令したようだ。
この頃になると、我、前川家の全員が、毎日、Y君の話を聞きたがるようになっていた。 これ以降、研修全日程が終了するまで、私が帰宅すると、「今日のY君は、どうだった、また、なにか面白い話はない?」と、玄関で詰問される日々であった。 私も、その都度、 「ホテルの朝食を三回オカワリした」とか、 「今日は着古しをあげたら、拝まれた」とか、 「昼食時、シツコイ勧誘が、Y君見て逃げるようになった」とか、 「相手が賭博詐欺とは知らず、麺を奢らせただけで帰ってきた」とか、 「奴が綴じたファイルは、穴あけパンチが中心になってない」とか、 「日本では、夏はクーラーのある電車で終日過ごすらしい」とか、 「この研修が終わったら、人生の伴侶を探す、と言っていた」とか、 重要性の大小にかかわらず、話すネタには困らなかった。
研修3日目は、私から、「今夜は、床屋まで車を出すので、定時後、シャワー浴びておいで」と、自分で切ったという虎刈りヘアーの、強制切除命令を出した。 普通は、“直前にシャワー浴びないと車に乗せない”なんて言われたら、怒り出すものだが、Y君は、そんなことより、散髪代金の方が心配だったようだ。 まあ、私としては、散髪代の安いKLなので、最初と、帰国直前の2度ほど、カットに行っておけば、日本に帰った後も、高いカネ出して、 面接用に理髪店に行く必要もないので、彼のフトコロ具合を慮っての提案でもあるのだ。
研修第一週目は、こんな具合であったので、アッという間の一週間であった。 ここまでを読むと、予定されていた、本来のIT研修そっちのけで、Y君に対して怒鳴ってばかりのような印象ではあるが、 そんなことをしていたら、後で、蓮舫参議院議員に突っ込まれてしまうので、一応、やることはしっかりやっていたつもりだ。 そして、面白いことに、朝から晩まで、研修や食事を共にしていると、ある種の仲間意識も芽生えてくるものだ。 当初は、あんなに嫌悪感を抱きながら、Y君と接していた、EさんとMさんも、彼の身嗜みが改善してきたこともあり、日に日に、“出来の悪い弟を叱る”ような、 親近感を持った態度に変化しているようであった。 そんな空気の変化を察知したのか、Y君も、ただ怒鳴られていただけではなく、自分の意見は、それが常識に沿っているか、否かは別として、 それなりに主張するようにもなっていた。
初対面のときと違い、お互いに、少しずつではあるけど、言いたいことを、言い合える雰囲気も醸成されつつあったので、 週末は、思い切って、最古参のローカル・マネージャも一緒に、SS2という現地の人しか来ない、屋台スポットに繰り出した。 100店近く軒を連ねる屋台街の中心で、大量のビールと、ローカルフードで、ドタバタであったこの一週間をふり返る。 若干の改善はみられたとはいえ、現時点では、強制的に清潔な身なりを強いられているだけなので、 今後、Y君が自主的に身嗜みを整えられるかどうかは、今後の矯正指導にかかっている。 皆、ほろ酔いではあるが、そのことだけは、暗黙のうちに再確認する、我々トロイカ体制3人組であった。
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さて、ここで、Y君をもっと知りたい人のために、関連するエピソードを非時系列だが列挙してみよう。
【デパ地下パラダイス】
彼が九州福岡に住んでいたときのことだが、究極の節約生活を強いられていたため、食事は毎日デパートの試食コーナーがメインであった。
ただ、毎日同じ所に出没すると、怪しまれる危険性があると考えた彼は、いくつかあるデパートで計画的にローテーションを組んでいた。
そして、これまた慎重なことに、同じ地下街の中では、隣り合った店の試食は避けて、一つ置き間隔で、
食べ物を調達(試食)してゆく戦法を基本としていたのだ。
しかし、或る日、空腹で判断力が鈍っていたのか、この掟を破ってしまい、隣り合ったコーナーをトントンと連続で試食したとき、
デパートの警備員に、「ちょっと待ちなさい!」と、呼び止められて警備室に連れて行かれて、コンコンと説教をされてしまったのだ。
未だにY君は、基本戦法の“一つ置き間隔作戦”を破ったことを悔やんでいたが、おそらく、以前から
『薄汚い格好で、食品コーナーをウロチョロして、試食を繰り返している、変な若い奴が居る』と、デパート側から
目をつけられていたのであろう。
「オマエ、そんな生活してて、恥ずかしくないの?」と、普通の人なら問うと思うが、その答えが揮っている。
Y君に言わせると、「食費を節約する生活の基本は、スパゲティ等の炭水化物です。ただし、子供の頃は色々な食べ物を食べていたので
、様々な味を知ってしまっています。その感覚を満足させる為に、デパ地下に通うのです。云わば、“味覚のアウトソーシング”ですね」・・・これには、私も負けた。
【外資系の男】
Y君は、「自分は、外資系の会社に向いていると思うんですよね」と、真顔で言う。
「おいおい、見たところ英語も、そんなに高いレベルではないし、ビジネスマナーも最低点、オマケに君は、32才にして、何かのプロフェショナルでもないよな」と、私。
Y君の理論だと、「外資系」の定義は、「就職」→(ステップアップ)→「転職」→(ステップアップ)→「転職」と、短い期間で会社を転々とすることのようだ。
「短い期間で、職を転々としている僕は、やはり、外資系に向いていると思います」・・・、もういい、害死刑。
【三種の神器】
“外資系の男”にとっての、ビジネス三種の神器は、[英語]、[IT]、[アカウント(会計)]だ。
Y君の、この持論に私は反対しない。そして、あの、“漬物石大の物体”の多くは、これらの難しい専門書だったようだ。
彼は、今回の研修で、これらのスキルをインプルーブさせて、三顧の礼を尽くして待っている(であろう)外資系企業のインタビューに行くのである。
「こんな計画で、KLに来たが、何故か当初の研修内容は、“風呂入れ”、“髪切れ”だった。
一応、従ってみたら、次のステップは、実践初級英会話、初歩のBASICプログラミング解析、そして、商業簿記の基本的な仕訳の質問だった。
どれも、よく分からなかったけど、専門的な知識なら、任せて欲しいのだけどな~」・・・ハイハイ、である。
【ゲリラ作戦】
知識階級の者にとって専門書は命である。
自称、賢者のY君にとっては、持ち込んだ数冊の高価な専門書を、ホテルの部屋で紛失することは、堪え難い。
そこで、以前、東南アジアをバックパッカーとして渡り歩いたときの、貴重品保管方法を、ここKLのホテルでも実践することにした。
新聞紙を下に敷き、その上に本を一冊、次に新聞紙を被せ、また本を一冊、これらを繰り返す。
そう、新聞紙と本をラザニア状にして、部屋に放置し、古新聞の束のように見せかける、彼によると“ゲリラ作戦”と呼ぶらしい。
これで、盗難が多い、アジアのゲストハウスでも、色々無事であったらしい。
古新聞が、娯楽であり、カーペットでもあり、防寒具にもなり得る、赤貧ゲストハウスの実態は知らぬが、高級ホテルでは、ゴミとして処分される確率が高いと、
私は思うのだが。。。まあ、書籍が無事であれば、ホテルの個室の中まで、指導対象とはしたくないので、それはそれで良しとしよう。
【面接無残】
数年前のこと、或る会社の面接日。
Y君は、数百円の電車賃を浮かすために、数時間炎天下を歩いて、面接に遅刻したうえで、汗だくで会場に到着した。
おそらく、プチ・ホームレス状態であったろうから、当然のように、面接官から疎んじられ不合格。
おまけに、面接官から「とても不愉快です」と、言われる始末。
Y君的には、“長時間歩いて、汗だくになる”程、努力してきた、という演出のつもりだったとか。
研修当初、私も、「その不潔さだと、皆が不愉快になるぞ」と、言い渡したとき。
「みなさん、そう言うんですよ、色んな、感じ方があるんですね~」と、しゃ~しゃ~と、言っていたのが思い出される。
【夢の財団法人】
「ところでさ、Y君の夢ってなんなの?」と、昼食のとき、話題作りのために問うてみた。
「僕の夢は財団法人ですね」と、Y君。
「何をする財団法人?」と、私。
「わからないけど、財団法人。なんか、こう、困った人達を支援するような」
昨日は外資系、今日は財団法人、明日は海外現地法人経営。
夢は膨らみますが、現在は、支援されている身だということを忘れずに!
【家庭内菜園】
Y君は、日本では、お金が入ると、とにかく根菜類を買い溜めするらしい。
日保ちが良いし、安いし、栄養があり、且つ、腹にたまる。
テレビでワーキング・プアの母子家庭のお母さんも、同じことを言っていたので、おそらく理に適っているのであろう。
Mさんが、茶化して、「根菜類は、放置しておくと緑の部分が増えるので、栄養の足しになる」と、冗談を言ったとき。
Y君の目が笑っていなかったのが、ちょっと不安だった。
【片思い】
Y君に、お気に入りの女性が出来たらしい。
事務所のあるビル群の、どこかにある会社に勤めているムスリム女性のようだ。
俄然、イスラムに興味が出てきたようで、イスラム教のお勉強にと、ちょっと難しい岩波文庫を貸してあげた。
数日して、「ちょっと僕には難し過ぎる」と、ギブアップして返却してきた。
そして、ムスリム女性との結婚は、男子側も改宗し、割礼をしないといけない、と知った彼は、「やはり、僕には無理」と、ここでもギブアップ。
まして、「以前はオウムに真剣に興味があった」等々、言うこと成すこと“薄っぺらい”ので、彼は、厳格なイスラム教には向かない。
私も同じだが、せいぜいモスクに行って、その荘厳な雰囲気を味わい、悦に入る程度にしておこう。
【前科二飯】
セコイ話だが、以前、昼食のとき、ミックスライス(経済飯:ご飯を皿に盛ってもらい、おかずはセルフ形式で自由にとり、最後に店員に値段をつけてもらう形式)
の賢い取り方を、Y君に伝授してしまった。
要は、チキンとか、魚とか、茹で卵とか、一品モノで、値が張るものを最初にとり、その上を野菜やカレーでカバーしてしまえば、
うまくいけば、精算時に気付かれず、値段も若干安くなるという、アサマシイ作戦だ。
まあ、店の人もバカではないので、ほとんど通用しないのだけれども、何事も程度問題だ。
値段を不当に安くするためではなく、取るつもりのなかったカレーの肉片などが、意図せず紛れ込んでしまったときなどには、
値段が高くなることを防ぐために、覚えておくと便利、といった程度で教えたつもりだった。
しかし、Y君にとっては、“生活の知恵”と聞こえてしまったようだ。
次の機会、皆で経済飯を食べに行きったとき、Y君が精算を終わってテーブルにつくと、妙に、“してやったり”の表情をしているのに気付いた。
彼の皿を見ると、見た目には、皿に盛った白米と青菜だけの、ベジタリアンフード状態だ。
が、しかし、不審に思って、問い詰めると、15cm位の魚の揚げ物が、一面の青菜に埋もれていた。
流石に、店の人には言わなかったが、我々の品位を疑われるので、「二度とやるな!」と、3人で罵倒したのだが、彼は、しっかり次もやっていた。
そのときも、罵倒の対象であったが、おそらく、独りのときは必ずこの作戦で、安いミックスライスを、ほくそ笑みながら頬張っているのだろう。
まだまだ、尽きないが、【後編】へと、つづきます。
(№63. ホームレス・インターンシップ生〔中編〕 おわり)