№23.超大国迷走


アメリカのアフガニスタン空爆が激しさを増すなか、そろそろイスラム教徒達はラマダン(断食)の時期を迎えようとしている。ニュースでは「ラマダンの時期も攻撃の手を緩めない」とアメリカの偉い人が言っているようだが本気なのだろうか。栄養過多の多いアメリカ人にとっては断食というとダイエット法のひとつくらいと高をくくっているかも知れないが、ムスリムにとって宗教的に非常に大切なこの期間に彼らの仲間にB52などを使って“無差別殺戮”を繰り返すとなると非常に困ったことになるのが正しく理解されていないようだ。戦争を機に軍需産業で経済を活性化させ国力を高めようという一部の支配層の目論見が過去のようには進んでないばかりか、炭そ菌事件などでジワリジワリと疲弊していくアメリカの様子を報道を通して見るにつれ“傲慢さの代償”は大きかったなと思うばかりだ。そんな中でも『トマホーク800基増産』とか『史上最大の契約、次世代戦闘機開発』などといったニュースがこれ見よがしに流れてくる無神経さには辟易だ。新兵器を前倒して配備させ民間人への誤爆覚悟で試験的に実戦使用しているようなニュースを見ると「鯨を食べる民族は野蛮だ!」なんて言われた日にはジョークとしか聞えないだろう。テロリスト側のプロパガンダかも知れないがアフガンの小さな子供達が空爆で親を奪われ自らも傷つき泣きじゃくっている姿の映像などを見ると、どんな大義名分があろうとこれは許されて良いものではないと普通の感性を持っていれば思うものだ。“世界の警察”を自負していた大国アメリカだが今やジョージ・W・ブッシュ大統領が「正義は必ず勝つ!」などと言っても自国民でさえ「ちょっと待てよ」といった思いなのではないか。


しかし、アメリカ人ってそんなに傲慢な人達ばかりなのだろうか。確かに経済、科学、スポーツ、芸術と多くの分野で世界のトップクラスに君臨し国土も広く戦争も強い。大リーグのナンバー1決定戦が何で“ワールド”シリーズなのか不可解だが、多くの人が母国を捨てアメリカでの暮らしを憧れるほどの国であったのは確かだ。冷戦後唯一の超大国になり「この国ではチャレンジすれば何でも出来る可能性のある国だ!」というポジティブな思考がだんだん「私達には不可能は無い、我々こそスタンダードだ!」という傲慢さに変化して来てしまったのかも知れない。私も今まで3回(湾岸戦争当時に西海岸1回と平時にNY2回)観光旅行で訪れたが何度でも行きたくなる程魅力のある国だった。しかし、今は“憧れ”などとは程遠く日常生活でも身の危険を強く感じるほどの危ないところになってしまったようだ。


それでは、ここまで来てしまった状態を解決する方法はないのか?毎日テレビやインターネットでニュースを見て一喜一憂しているだけでは埒があかないので世界平和の為に頭を使って考えてみた。アメリカは今のまま空爆を続けても敵を一人残らず全滅させない限り恨みを買い続けるだけだし、そんなことをしたら別の恨みまで背負い込むことになる。泥沼直前のこの状況を更に悪くしない為には、プライドを捨ててでも攻撃を即刻無条件で中止する以外に選択肢は無いと思う。そうなればイスラム諸国は一定の前向きな理解を示す余地も出来るし不要なテロを誘発するリスクも減る。どんな狂信的なグループだって空爆で吹っ飛ばされる心配が一時でも無くなれば“窮鼠猫を~”状態ではなくなるだろう。長期的な視野にたった方法ではないが一番の効き目があると私は信じる。一段落させた次のステップでは当然喧嘩の当事者(アメリカ)に適切な解決方法を見出せるとは思えないのでイスラム圏の良識ある国家を中心とした国連特別グループでテログループとその支援国家指導者を“ならず者”を戒めるカタチで逮捕し裁きにかけ新政権を模索するのだ。まともなイスラム国家であれば同時多発テロのような行為がイスラム教の聖戦(ジハード)だなんて絶対黙認出来ないな筈だ。しかし、もし逮捕もできずテロも継続されるようだったら行き着くところ迄行くしかない、どの国だって自国を守る権利はある。


次に長期的な対策である。根本にある問題は単純に言えば『兵器を作って金を稼いでいる限り戦争が必要』だということだ。安全保障や治安維持の為に武器が必要なのは当然だが、アメリカの軍需産業は戦地や紛争地域を商品の消費地兼見本市的に利用し人の命をビジネスの犠牲にしてしまっているところに大きな問題があるのだ。米軍から軍需産業に流れる金は『トマホーク』や『史上最大の契約』の報道でその莫大さが分かる。それだけの金を貧困層対策や難民問題に振り分ければ有効なだけでなくアメリカも少しは感謝される国になると思う。しかし、軍と産業がガッチリ手を組み政治家をもコントロールして国民を戦争へと誘導して行くようなことを続けている限り“9月11日の悲劇”は繰り返されるであろう。それでは元凶である所謂この軍産複合体の存在をどうすれば良い方向へもっていけるのか。これは確立された組織や人脈、そして既得権の塊のような産業なので簡単には解体出来るものではないだろう。しかし、この部分を転換させないかぎり10年か15年毎に無辜の民が犠牲になって行くのである。案はこうだ、まず主だったアメリカの軍需産業100社を対象に“軍需”から“民需”への転換プログラムを政府支援(政権交代していることが望ましいが)の元に作らせる。案は自社内のみで考えようが一般に募集しようが自由だ。そのプログラムの実施期限は10年か15年を一区切りとし会社の規模により大きいほど猶予を与える。プログラムの評価と進捗の査察権を国連が持ち計画以上に売上に占める軍用品比率が高い会社に対しては公開し警告を与えることとする。(アメリカが査察を受けるなんてちょっと愉快だ!)軍の防衛ネットワークが今日のインターネットの基礎となったり、SDI技術がカーナビに応用されたように軍用で培った技術をどんどん民間へ移転することで経済が活性化する例も多くあるのだ。一方ではメディアが中心となり戦後アメリカが行ってきた軍事行動と産業界の関連を掘り返し考察する運動を起こし、“誰が、何(誰)のために、どうやって”戦争や空爆に進んで行ったかの事実を明確にしていく。この事実を公開することにより国民の軍事行動に対する監視の目が一層厳しくなる筈である。一般的なアメリカ国民はちょっと傲慢なところもあるかも知れないが、けっして“異人種なんて戦争で何人死んでもかまわない”なんて考えているとは思えない。正しい情報と冷静に判断できる環境さえあれば自国の中にある“悪”を必ずや消し去ることが出来ると思う。


さて、よく分からないのは日本だ。易しい言葉でハッキリと自分を主張出来る筈の小泉首相が今回の同時多発テロ以降何故か情けなく映るのは私の気のせいだろうか。本当にアメリカのやり方に賛成なのだろうか?そんなにアメリカに同調しなくても良いのではないか?イスラム圏に居る日本人の安全も考えているのか?本当は「空爆続けるなら日本は協力しないからね!」と言いたいのではないか?疑問符だらけである。アメリカの利益は日本の利益だと割り切って行動しているのならまだポリシーもあるが、“近所付き合い”レベルの意識で人殺しに絡むのは絶対やめてほしい。爆弾を落としているその下には生身の人間が居るのである。政治家達は自衛隊を出すのに現場でのルールつくりに忙しいが戦場にルールなんて通用するのだろうか、所詮破壊と殺人の修羅場の筈だ。後から「こんなはずじゃなかったのに。」と悔やんでも死んだ人は帰って来ない。今、平和主義日本が一番しなければならないことはアメリカの暴走を牽制し一人でも多く意味もなく死んでゆく人を救うことである。わが国の国家元首は是非あのカウボーイ大統領に向かってこう言ってほしい。「世界はあなたの国中心に回っていると思ってらしっゃるようだが、戦争という外交手段で人殺しを正当化するのは止めなさい。日本は各国と協調してテロには断固たる態度で臨むが暴走するあなたの指示は受けません。」と。経済の地盤沈下や雇用不安そして人々の心が荒んでゆく日本であはるが、そのくらいのパワーはまだ残っているはずである。我々はけっして無関心であってはいけない。


(№23.超大国迷走 おわり)

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