№18.Working with local staffs.


当社(CSL)は日本の顧客を相手に様々な業務システムを開発している。例えばある顧客が入出金伝票を全国の支店や営業所で入力して本社で一括して管理資料を作成するようなシステムを開発するといった具合である。直接顧客よりインターネット経由で要求仕様のファイルが送られて来て即プログラム設計に着手する場合もあるが、殆どは初めに日本の顧客本社に出向いて担当者と打ち合わせ兼顔合わせを行う。いくらITが進んだ時代だと言ってもFace to Face のコミュニケーションは重要だ。資料を頂き説明を聞き質問をしてツールの選定からハードウェアの提案なども行う。その後は本拠地が外国ということもあり電子メールのやり取りで打ち合わせを重ねながら仕様を纏めるような仕事の仕方をさせてもらっている場合が多い。顧客自体がコンピュータのプロフェショナルの場合もあるが、概して業務知識は豊富だがコンピュータは門外漢という場合が多いので専門用語等の使い分けも神経質にならざるを得ない。また、ときによっては顧客内での要求の食違いなどの調整役をしなければならない事もあったりして、単なるコンピュータマニアが画面とにらめっこでプログラミングしているような仕事を想像される方が多いようだが、結構人間臭い部分が重要なパートを締めているのである。そのような中で「マレーシアの現地人スタッフにどうやって仕事をさせているの?」、「日本語混じりのプログラムをどうやって組ませているの?」と質問されることが多々ある。その質問の裏には「その程度の英語力で通訳も使わずよく仕事してるもんだなぁ。」という疑問も含まれていると思うが、毎度毎度同じような話を繰り返すのも面倒になって来たのでここで書いてしまおうと思う。


本来なら日本語能力が日本人と同じくらいでITの分かるローカル社員がいて顧客対応から現地展開までやってくれれば私は“金勘定”だけしていれば良いのだが、なかなかそんなに優れた人材は見付からないし、いたとしてもCSLのような小さなSOHO会社には来てくれないものだ。まして、日本と違い転職率が高いこの国では中途で入社させた優秀な人材に定着を期待してもはじまらない。そうであれば言葉は悪いが“色”の付いていない新人を雇いCSLカラーで染めていくしか手はないのではないかと思っている。他社では“即戦力”でない為雇用されないかも知れないが将来チカラになりそうな若い人材を採用し、ある意味では“遊ばせ”ながらCSLプロパーとして育てるのだ。あまりにも古典的日本流を見かねて「実力がついたら転職をチラつかせてサラリーアップを要求されるだけだぞ!」と忠告されるが、それはそれで私はOKなのだ。アジアで会社をやろうと思ったときから、他社のほうが給料が良いので辞めたいと社員が言って来たら、「おめでとう」と言って送り出してやろうと心積もりしていた。以前日本の会社でもいろいろあったが、あまり従業員に対しての期待や感情が入ると自分の精神衛生上良くないのと、結果は何も変わらないのでスパッと割り切るよう努力している。(割り切れるかは別として...)


さて、本題のローカルスタッフとの仕事の進め方だが、現時点では「何をやりたいか」という要求までを日本人顧客の意図が分かる私または日本社(CSS)の者が作成し。「どう実現するか」からをマレーシアの現地人タッフが手掛けるような仕事の分担をしている。分担と言っても厳密な境界線があるわけでは無いので、何か気が付けばお互いの仕事を補完しあっているのが現状だ。私が常に大切だと思っているのは、自分達が開発するシステムがどんなユーザに使われて、どういった役割を果たし、顧客の中でどんな意味を持っているかを理解しようとする心構えだ。プロジェクトの始まりは毎回これからやることにしている。顧客企業の説明(親会社がxxxで従業員がnnn人でyyyがメイン業務で等々)、システム化対象の背景、担当者との間柄、納期はもちろん受注金額に到るまで詳しく伝えることにしている。たとえ担当するプログラムが枝葉のものでも日本語の資料も全てコピーして与え全体をイメージして仕事をするように仕向けている。最近の資料は日本語であっても画面やレポートは絵になっているのでイメージし易いしChinese Educationを受けて来た中国系のスタッフばかりなので、ありがたいことに彼らは漢字の意味がほぼ意図する通りに理解できるのだ。これらの説明は私が知っている限りの単語と紙と鉛筆で伝えることにしている。たとえ日本語の出来るスタッフがいたとしてもその本人が内容を理解していない場合は説明することは不可能だからである。下手な英語でも伝えたいという意思と理解したいという心があればかなり以心伝心で伝わるもので、最近では私が妥当な単語が思い浮かばず言葉に詰っていると先輩格のスタッフがピッタリの表現で補ってくれたりするほどになって来た。


不思議なことに彼らは日本語のデザインをみて同じものをプログラムすることが出来る。こちらで仕事をする前はスクリーンやレポートの所謂インターフェイス部分だけは日本人が作らないと不可能だと考えていた。当初は当然のようにそのパートは事前に入力してあげたりして任せなかったし、内部のロジック(論理的な処理)さえキチンと組み立てられるようになってくれれば良いと思っていた。しかし、いつしか自分達でインターフェイス部分も作れるようになっていた。私が不機嫌な時とかにいちいち「シャチョー(日本と同じでこう呼ばれている)、この漢字を入力してください。」とか言うのが億劫だったのだろう。最初は設計書のファイルからカット&ペーストしているのだと勝手に納得していたのだが(事実そうする場合が多いが)あるときテストデータの中に「酒井法子」やら「反町隆」の名前を見つけたので、これはどうやって入力したのか聞いてみたら、なんと彼らはMS-IMEの手書き文字認識ツールを使って似たような漢字を打ち込んでいたのだ。どうりで時々意味不明な漢字をテストデータやスクリーンでみるわけだ。


今のローカルスタッフ達は他社の酷い話(製品を盗むので監視カメラが必要だとか、工員仲間をリンチにしたので警察でお灸をすえてもらった、等々)を聞く限りではマズマズではないかと思っている。が、しかし不満が無いと言えば嘘になる。例えば私が日本にいる期間は普段自分の携帯でかける私用電話も会社の回線を使っているようだし、顧客との接点が殆ど無い為か納期に関する意識が薄いのも困る。それ以上に“物足りない”と感じるのは自分の作業が終わっても(無くなっても)「次は何しましょうか?」とならず、パソコンに向かって時間と電力を浪費してしまうことが多いことだ。「終わったらリーダーか私に報告しなさい!」,「時間を無駄にしないよう!」と最近は明確に言い渡してあるので改善されては来たが、本質的には熱帯のノンビリ気質はそう簡単には変わらないようだ。フレックスタイム制で服装も自由、仕事の仕方も本人流を尊重するがその代わりアウトプットをキッチリと出してくれればOK、というマレーシアの中でもかなり自由な会社なのだが、その裏にある責任まではまだ見えないようだ。若くて経験が浅い者ばかりなのでそれは私の高望みかも知れないが、監視カメラや警察の手が必要ないだけ良しとしよう。


(№18.Working with local staffs. おわり)

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