当地で働く日系現地法人の社長はもちろんのこと駐在員の人達も殆どが管理職である。その為皆ローカルマレーシアンの社員を部下に持っている。例外もあるだろうがほとんどの人達が常に習慣、文化の違いから来るストレスを多かれ少なかれ抱えていると思う。日本人がご当地の日本食レストランに集まり話をする機会があると、異国在住の同胞故についつい気をゆるし、このストレスからくる"愚痴大会"となる場合が多い。
マレーシアは多民族国家に加えビジネス的にも今現在は先進国企業の工場的役割を担っている。そのため色々な人種が仕事で訪れ居住しているが、大きく分けてマレー人、華人(中国人)、インド人、その他の四つに分類できる。日系の企業に限らず在マ企業は各人種の"友人達"を大量に採用しそれぞれの得意分野でチカラを借りて発展を図っている。しかし、島国単一民族国家の日本人にとっては皆異人種であり、まして我々日本人が慣れ親しんだ典型的外国人(つまりアメリカ人)とはちょっと違った友人達なのである。
私が当地で感じるストレスは"忍耐","規律","謙遜"と言った昔からの日本文化を受け継ぐ日本人にとっては当然のようなこの言葉が実感出来ない場合が多々あるからである。こんなことを書くとこれを読んだローカル社員が怒り出すかも知れないが、私が言いたいのは「日本式の方が良く、当地がなってない!」と言っているのでは無く、"違い"から来るストレスを持つ日本人がいるということを知ってもらいたいのである。
まず"忍耐"。こっちの若い人は簡単に仕事を変える。入って一ヶ月で辞めたG君などは責任感のある方で、入社3日で辞めた不届き者もいた。そのS君、面接の時にその時点で勤めていた会社の上司の悪口を言っていたので気にはなったが、そこに一年以上も勤めているし、面接をもすっぽかすヤツが多い当地で異常に時間に正確なところを見込み"とりあえず3ヶ月の試用期間で見極めよう"と採用することにした。S君も条件的には納得しサインを済ませ数週間後のある日出社初日を迎えた。歓迎会も社長である私が日本から帰る翌週にセットされ、後輩をいびるようなワルの先輩も居ないし事務所はマレーシアの中ではかなり綺麗ときている。ところが入社3日目の朝の私が留守の間に「辞めたい」と言って来た。日本でその連絡を受けた私は、仕事が思ったより難しそうなので怖気付いたのかなと思い理由を聞いたら「時間を無駄にしたくない!」と言っているらしい。「この先やっていけるか不安です」みたいなことであれば、引き止めて自信をつけさせるように努力したいとは思えるが、まるで我社にいるとバカになるのでさっさと逃げたい、と言っているのと同じである。「2~3日で何がわかるのか!あのガキ、給料精算して帰ってもらってくれ」と語気を強めて終りである。結局S君は給料は要らないと言い早々に事務所を後にしたらしい。後でローカル社員に聞いたら「日本語まじりのソフトでイライラしていた」らしい、そんなことならそう言って相談すれば良いものを「時間を無駄にしたくない」などと言うべきではないと私は思うのだが..."時間を無駄にした"のはこっちなのだよS君。
次に"規律"。マレーシア人に限らず東南アジアの人達はプライドが高い。人前で叱られるのを嫌うし、叱った側も軽蔑されるそうだ。小さい事務所ではここが辛い。若い社員に叱る材料など山ほどあるし、気が付いた悪い芽はその場で摘み取るのが"日本流の良い管理方法"だと本にも書いてある。しかし、これがここではマイナスになる。私が一番嫌いなのは朝遅刻されることだ、早く来て仕事している同僚にも気を使わせるし、管理職は"注意する"というやりたくない仕事がひとつ増え暗い気分になる。しかし、交通渋滞の多いKLでは遅刻の理由はどうにでもなる、「JAMで遅れた」この一言ですべて解決すると思っているメンタリティが私は気に入らない。確かに朝に大雨が降り、交通事故で1車線が潰れたような場合は車の流れが悪く、どうにもならない場合があることは認める。しかし、同じ方向から来ていて早く仕事を開始している人もいるし、大雨で渋滞が予想されれば早く出ることだって出来る。何度も続けて遅刻されると朝から我慢の限界、爆発寸前状態にだってなる。日本なら"見せしめ"も兼ねてドカンとやるところだが、ここで叱り付けるとマズイことになる。じっと窓から遠くを見て"ムカツキ"が納まるまで待つしかない。この間約1時間、忙しい時などは大変なロスだ。この手の対処方法はこちらではワーニングレターといい警告書を出すのだが、私のコンサルタントの話では警告書を受け取った時点で退職願いが来るのだそうだ。プライドが会社からの警告書を受け取らせないのだろう。"規律"と"プライド"の両立、未熟な私には厄介な問題だ。
最後に"謙遜"。人材募集をすると沢山の履歴書が集まる。我社はコンピュータソフトの会社であるため、どの程度のソフト開発スキルがあるか書く欄がある。でも私は殆どその欄は参考にしない。なぜならほぼ全員同じことが書いてあるからである。それも、ありとあらゆることが出来ると書いてある。年齢、経験年数から見ると全て"嘘"に近い。日本では履歴書に"嘘"を書くと採用後非常にマズイことになる、その前に"嘘"は通用しないであろう。最近は「この分野の経験は豊富です、私を雇えばきっと御社の利益になります」的な履歴書は悪いアピールでは無い、むしろ良い部類に入るだろう。しかし、「あれも出来ます、これも出来ます、みんな出来ます。」で詳しく聞けば「全部出来ません。」じゃ論外である。だから私は面接のときはいつも最初に「出来る事、出来ない事は何でも正直に言うように!」と釘をさしてから始めるようにしている。
ここまで読まれて日本で新人類を使わなければいけない旧人類層の管理職の方などからは「今の日本から比べればマレーシアは良い方じゃないか、こっちはもっと酷い状態だ!」とお叱りを受けるかも知れない。私も日本に出張して電車に乗り若い人達の傍若無人さを見ると絶望的な気分になり怒りさえ覚えるときがある。ああだこうだとマレーシアのことを愚痴ってはいるが、そんなときいつも思うのは何故か「早くマレーシアに帰りたい」なのである。私自身もかなり中途半端であることは認める。
(№2.ストレスの巻 終り)