№32. テロリストの生みの親


イラク戦争開戦当日テレビで経済ニュースを観ていたらトマホークの発射映像の後ニューヨークからインテリ風の日本人女性アナリストが「この戦争は市場ではプラス材料と判断し云々」と、したり顔で喋っている画面に飲んでいたビールの缶を投げつけそうになってしまった。最近では「イラク民兵の自爆攻撃は卑劣な行為だ!」などと自国の横暴さを棚に上げて記者達を前に発言している米高官を見て持っていたリモコンを握り潰しそうになった。今夜見ていたCNBCの戦争賛美お涙頂戴的キャンペーンに至っては飲んでいたジンのボトルを投げつけてやりたくなった。


ここ数ヶ月“多忙”という理由だけでイラク戦争反対の意思表示が出来なかったことが悔しくもあり情けない。今回はちょっと怒りを込めてこの戦争について書いてみようと思う。


米英により強引にはじめられたイラクへの侵略戦争は、「力(武力)の強い者だけがこの世を好き勝手に支配出来る。」と言うことと「戦火で犠牲になった民間人や兵士達はまったくの無駄死にでしかない。」という救いようの無い教訓を歴史に積み上げるだけで終わらせて良いのだろうか。戦争への経緯は開戦までは連日のように報道されていたので、おそらく中学生でも問題意識を持ってこの戦いの結末を注目していることだと思う。各地で広がる反戦デモのニュースを見ると、皆今までとはちょっと違うスタンスで米英の主張に対して猜疑心を抱いていると思われ嬉しくもある。今後“発見”されるであろう大量破壊兵器や化学兵器所有の“証拠”が出てきても米英の発表を鵜呑みにすることなく冷静に疑いの目で見ることが米英の暴走に対して強力な一撃を与える為には大切な事なのだと思う。何故なら彼等は歴史的に見ても国際ルールを事実上無視し、他国の忠告にも耳を貸さずひたすら自国の利益の為に尊い命を大量に犠牲にして成り立っている国家だからだ。


米英軍の一部が首都に入った今日現在でライス大統領補佐官が「戦後復興は国連主体ではなく血を流した我々主体で行う。」などと発言したと報道されているが、これなど正に今回の侵攻目的が“イラクの開放”などではなくアメリカの国益の為だったことの証明だろう。欲しいものはいかなる手段をとっても手に入れるのがアメリカ建国以前からの基本姿勢なのでこんなことは驚くに値しない。国土は先住民のインディアンから騙し奪い、労働力はアフリカから人間を家畜の如く奴隷として拉致して来た輩たちである。オイルが国家の生命線となれば埋蔵量の多い地域向けて“アラモ砦”,“メーン号”,“パールハーバー”と続きお得意のヤラセ演出で大義名分をでっち上げ世論を味方につけ侵略開始となるのである。真の歴史的検証がされるまでは迂闊なことは言えないが、今回の口火は“9.11”で切られていたことは誰もが想像してしまうだろう。 今回の大義名分は“大量破壊兵器を廃棄しない独裁国家への制裁”と“国民の独裁政権からの開放”だが同じような国は日本の傍にもある。が、奪い取るべきモノが何も無いので“必要な危機”として温存しておく方針なのだろう。その方が居候を決め込む在日米軍の存在意義を高める役割としても価値があるし、地続きで対峙する在韓の居候連中も返されなくて済むと言うものだ。しかし、実際に大量破壊兵器を使って他国民を一番大量に殺しているのは他ならぬアメリカだという事実も決して忘れてはならない。


それにしても我日本国政府の対応は「雰囲気眺め」~「追随」と酷いの一言だ。テロの危機が日本国内より高い地域に住む在外邦人はかなり失望(と言うより怒りに近い)したと思う。政府の対応は例えて言えばスナック『恋寿美』の白髪マスターがスジ者Aに「おまえなぁ、他の組にこの店荒らされても良いのか?」と脅かされて“みかじめ料”を取られたうえ、「Aさんには日頃からお世話になってますからねぇ...」などと言って勘定を踏み倒されてもヘラヘラ笑っているようなものだ。アメリカが白と言えば白、やっぱり黒だとなれば黒と追随するだけでは、他国の人からは「無能」と笑い者にされることを通り越して「大丈夫なの?」と同情されてしまうのではないか。テレビで見る与党の幹部も話を聞いていると「皆さんは誰かに脅されているの?」と思いたくなるぐらい情けない答弁が続いている。これは独立国家の政権与党として明らかにおかしい状態だ。今後はなし崩し的に戦後復興への協力を迫られ多額の血税を貢がなければならない状態になること必至だが、それが本当の国際貢献なのだろうか。まして、そんな余裕がこの不況に喘ぐ日本にあるのだろうか。湾岸戦争の時に戦費負担の増税をやったが今度は許される話ではない。大量破壊兵器の資材調達費の補てんにされるぐらいなら戦費負担の分は拒税するほうが税務署が何と言おうが人道的には正しい選択だと思う。そもそも壊さなければ復興の必要もないではないか。小泉首相も後世に名政治家として名を残したかったら安易で合理的な“苦渋の決断”も分からないワケではないが『アメリカの言っていることはスジが通らん!』と一言釘を刺すべきだ。日本はアメリカの一州でも無く、まして植民地でもない独立国家なのだからしっかり自己主張してくれないと“舎弟”同然になってしまう。舎弟に成り下がれば今後も「みかじめ料」を値切ることは出来ないことくらいは良く考えるべきだ。


一方、侵略される側のことを考えるとかなり絶望的だ。モスクや病院に軍隊が避難し形勢を立て直そうとするのが“汚い行為”なのかは倫理観と情勢によって評価が微妙だが、仮に自国があのように一方的な論理で攻められ生命の危険を感じる国だったらどう考えどう行動するだろうか。実際に理屈の通らぬ圧倒的に力の強い暴漢を相手にしなければならない事態に陥ってしまったら何をするだろうか。生きる為の降伏か殉教しか選択肢が残されていないなんて酷すぎることだ。空爆で家族全員失ってしまった状態だったら復讐を心に決める人が多くても無理もないことではないか。しかし、力(武力)の差は歴然としている。テロ行為を肯定しているわけではけっして無いが、彼等がテロに走るのは自然のことだと言わざるを得ない。米英政府が忌み嫌うテロリストを育成サポートしているのは確かに各所で指摘されているような国々だとは思うが、実際に生み出しているのは米英そのものであり日本政府もそれに加担する表明をしてしまったのだ。このことが将来日本にどんな結果として帰って来るかは分からないが、作らなくてよい敵を作ってしまったことだけは確かだ。先週在マレーシアの日本人会会員へ『日本政府がイラク戦争へ支持を表明したことにより、日本人会へのテロの可能性も否定できないので警備上の理由から訪問者の事前登録を行う。』との趣旨の文書が配布された。一見平和なマレーシアではKLで死者も出たSARS程の差し迫った危機ではないにしても『日本政府方針=日本人の意思』と誤解され攻撃の対象になるのは非常に心外だ。


さて、各地で反戦デモや集会が開かれ日本国内もかなり強い反戦の意思表示がなされているようで心強く思う。昨夜のニュースでは小学生まで自分達の意志で反戦を訴えて立ち上がったと聞き非常に刺激になった。ただ、今一番意思表示をしなければならないのは有権者で且つ納税者の中核を構成する我々世代(俗に言うサラリーマンの層)だろう。しかし、日本ではこの層は自分の意志とは関係なく何かと忙しく働かなければ生きて行けないように社会に組み込まれているようで、市民的な発言をする意欲が薄い(薄くされている?)のも事実だと思う。(恐ろしいこと、その事に気付いていない人の方が圧倒的に多いように感じるが...) 反戦の意思表示と言っても色々あるが米国製品不買運動などはその製品に関連している自国民を苦しめるだけでお門違いな結果を招く恐れがあるので私は賛成しない。ましてMACやKFCに張り紙をして石を投げつけたりする行為は便乗して騒いでいると思われるだけで結果的にはマイナスだし犯罪行為だ。『ではどうすればいいんだ?』と言われるお父さん達にはもっとも身近な表現手段であるインターネットによる 書き込みをお勧めする。それも内輪のBBSなどではなく堂々と首相官邸 に意見しようではないか。もちろん匿名による誹謗中傷は論外。首相官邸も国民の意見を歓迎するとのことなので、この際しっかりと意思を伝えてしまおう。湾岸戦争当時はこんな便利なツールは一般的には使用されていなかったが、この新しいインターネットと言う武器が政府を動かす一因にならないとも限らない。(事実、傍若無人なある大企業の幹部の行為を糾弾して謝罪させたこともある。)


これまでアメリカについて批判を書いてきたが私はアメリカ人全体を批判しているわけでは無い。ある意味では若いアメリカの兵士やその家族だって犠牲者だ。捕虜になり辛酸をなめる者、自軍の誤爆で命を落とす者、パトリオット(愛国者)という名の防衛用のミサイルで打ち落とされる者、どんな美辞麗句を並べて称えられようが家族にとって身内の死は死でしかなく黒いゴム袋(もちろん遺族と対面するときは星条旗で包まれた棺桶だろうが)に入れられて帰ってくる肉片を見てから「息子をこんなバカげた戦いに行かせたのは間違いだった」と思ってもその時は既に遅いのだ。アメリカにはまだアカデミー賞授賞式のように堂々と自国の大統領を批判する健全な自由さが残っている。反対に「USA!、USA!」と叫び愛国(一国)主義に傾倒して行く人達も少なくないようだ。誰が言ったかは忘れたが死んで行く兵士の中核をなす年頃の子供を持つ親として私はこの言葉を忘れられない....


「戦争をはじめるのは常に老人で、死んでゆくのは常に若者達だ。」


残念ながら、この事実だけは今も昔も変わっていない。


(№32. テロリストの生みの親 おわり)

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