№7.罰則


マレーシアに来てから聞いた恐ろしい話を書こう。マレーシアには幽霊の話や伝染病の恐ろしい話もたくさんあるようだが、話題を犯罪に絞って書いてみたい。日本でもイスラム文化の掟は非常に厳しいものだとよく知られている。しかしそれは遠い遠い中近東のどこかの国の事のようで実際に経験で知っている人はここマレーシアに暮らす日本人でも数少ないと思う。しかし、それは運が良ければ(悪ければ?)意外にも日常生活に近い部分で見る機会があるようだ。今回は友人の日本人女性が強盗の被害に遭ったときの事を紹介しよう。実はこの方とは彼女の仕事の関係で我社の事務所にて面会する予定にしていた。しかし、何故か来る筈の面会確認の連絡も無く「どうしたのだろう?」と思っていたら下記の事件に巻き込まれて入院していたとのことだった。この話は退院直後の事件の記憶が生々しく残っている時期に被害者である彼女(Mさん呼ぼう)から直接聞いたはなしだ。ご本人はもう思い出したくない出来事だと思うが、マレーシア在住者の為には注意を促すことが出来るし、少年法改正で議論中の日本の方にはマレーシアの現実も知ってもらいたいのであえて書かせて頂こうと思う。


事件が起きた場所は「地球の歩き方」で“KLの代官山”などと紹介されているBangsarという地元では比較的お洒落な地区だ。週末の夜ともなると着飾った若いカップルや裕福な日本人や欧米の人達が集まる為他の地域より少し物価が高い。地区内には交番があり治安という意味ではまったく問題なさそうなところでその事件は起こった。Mさんともう一人の当時アメリカからマレーシアに引っ越して来て一ヶ月目の日本人女性(Xさん)の二人が日本料理屋Sから出てきた時に悲劇は既に始まっていた。食事中の会話が余程弾んだのだろう、店から近くの駐車場まで約200メートルの移動時も周囲を気にすることなく大きな声で(それも日本語で)しゃべりまくっていたそうだ。そんな彼女達だ、背後から二人の怪しげなマレー系男性がそっとつけて来ていることなど知る由もなかった。明るい外とは対照的に薄暗い地下の駐車場に入り、車のドアーを開け体を車内に沈めようとした瞬間に彼等は行動に出た。男の一人はカッターナイフでXさんを脅しながら後部座席に押し込め、もう一人の男は運転席に乗ったMさんを刃渡りの長い刃物(こちらでは“バラン”と呼ぶらしい)で威嚇しながら力一杯シートから引きずり下ろそうとしたのである。普通の日本人女性ならカッターナイフなど突きつけられたら震え上がってしまうところを、犯罪多発国アメリカでの経験が生きたのかXさんはカッターナイフを払い退けて車を飛び出し大声をあげて人がいそうな所へ助けを求めて走った。その間Mさんは必死の抵抗虚しく車から引きずり出され車のドアーの下で力一杯首などを打ち据えられていた。丁度車の陰になり周囲からも見えなかった事もありMさんの被害を大きくしてしまった。Xさんの声を聞きつけて集まって来た群衆が後を追ってきたカッターナイフ男を取り押さえるまでにさほど時間は必要なかった。取り押さえられた男の悲劇はこの時から延々と続くことになる。「男が刃物を持っている」→「外国人女性が声をあげて逃げている」→「確かに犯罪だ」→「助けなくては」と群集は無意識に判断して男を取り押さえた。その後は「こいつは悪い奴だ」→「お灸をすえてやろう」→「そうだ、そうだ」→「俺も、俺も」と酒と群集心理も混じってカッターナイフ男は自分の犯した罪の何倍もの仕打ちを受けることになってしまった。Xさんが取り残されたMさんのことを告げたのだろう間もなくMさんも救出された。その際もう一人のバラン男は何も取らずに逃走した。Mさんは刺されはしなかったもののかなりの重傷で、その後入院し後日日本へ精密検査の為一時帰国することにってしまったのだ。しかし、カッターナイフ男の悲劇はまだ終わらない。群集の“おしおき”のあと地元交番に突き出された彼は一時的に交番の中へと連れて行かれた。被害者は勿論のこと野次馬が交番を取り巻き事の成り行きを見守っている。通常、交番では簡単な取り調べの後所轄署に連行されるような気がするだが、ここではちょっと勝手が違うようだ。重傷を負ったMさんの記憶では交番から「ズシン、ズシン」、「ドド~ン」と振動が聞こえてきて「もっ、もう許してくたさい!」と命乞いをするような犯人のかすれた声がすること数分、中から出て来た犯人はまるで試合後のボクサーのような顔をしていたそうだ。被害者であるMさんですら「もう、このくらい終りにしてあげては?」と思うなか、なんとポリスは「好きにして良い!」と犯人を被害者に突き出したのだ。緊急通報で飲んでいたパブから駆けつけたXさんの旦那は大切な妻の報復とばかりに一撃を浴びせ完璧に加害者の責任を取って頂いたという訳だ。


こんな事実がもし日本で発覚したらどんなことになるだろうか、おそらく警察組織の相当上部まで首が飛ぶだろう。容疑者(犯罪者)の人権無視だと一斉にマスコミや知識人達の攻撃に晒されるであろう。しかし、ちょっと待って貰いたい。犯罪者の人権と被害者(刑を甘くする事によって生まれる未来の被害者も含む)の権利とどちらが大切なのか。答えは決まっている、善良な市民の方だ。だから野蛮なようだが未来の犯罪を防ぐという観点で言えば、殺人者より被害者の人権が粗末に扱われる今の日本流よりマレーシア流の方が極めて合理的な考え方なのだと私は思う。もちろん誤解でボコボコにされたんじゃかなわないが奴等は現行犯なのだ。ひとつ間違えば人の命と金品を奪い逃走し再び同じ過ちを繰り返す可能性のある札つき野郎達だ。「もう許してください!、二度と犯罪は犯しません!」と強盗など割に合わない事だと骨身に染み込ませる為にも鉄拳制裁でOKなのである。少々乱暴な意見なので反対される方も多いと思う「おまえに人権を語る資格があるのか!」、「法の精神を勉強してから発言せよ!」等々...わかった、わかった、ではもし自分の最愛の人がたまたまバスに乗っていて犯罪暦のある19歳の少年に長時間連れまわされた挙句刺されたとしよう。「この少年には未来があるから刑を軽く」などと言ってる奴らの意見にあなたは納得出来るだろうか?それより「何で隙を見て狙撃しなかったのか、それよりどうして再犯の恐れのある者を自由にさせたのか」と警察や裁判所に詰め寄りたい気分だと思う。極端なことを言わせて頂けば日本は少年法など撤廃してみてはどうであろうかと思う。そもそも少年法が出来た当初は、貧困でどうしようもなくて犯罪に走る未来のある若者を救済するべく活用されていたとテレビで聞いたことがある。現代の少年犯罪はそれとは180度異なる性質だと思う、愉快犯、ストーカー殺人、通り魔、なんら必然性の無い犯罪ばかりだ。なにも現行犯逮捕でボコボコにしろとは言わないが、そんな輩を手厚く保護するのは勘弁してほしい、いっそのことカンボジアあたりで地雷撤去の奉仕活動でもさせたほうが人類の為になって良いかもしれない....。はなしが纏まらなくなったが、日本からのニュース報道や週刊誌を見ているとホントにイライラし憂鬱になる今日この頃だ。


(№7.罰則 おわり)

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